風水巷談:目次

生活の中の暗号の話

~いろは歌と縦読み~


いろは歌の謎

この話、筆者は最近まで寡聞にして知らなかったのですが、暗号関係の書籍を探していて発見し、嬉しくなって今回、発表したくなってしまいました。知っている方も多いと思いますが、どうぞお付き合い下さい。

 

いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす

色は匂へど 散りぬるを
我が世たれぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見じ 酔ひもせず 


50音を重ならないように使って、うまく作ったものだなあ、ぐらいに思っていたのですが、これ、実は暗号文なのだそうです。

表内のぶんは、意味が通りやすいように区切りましたが、これを七文字に区切って並べてみます。
上の漢字書きの写真のぶんが七文字になっていますが、一番下の文字だけ拾って読んで下さい。
もちろん、縦書きですから、右から左へ読みますよ。そうすると…

「とかなくてしす=咎無くて死す」


つまりこれ、冤罪を訴える歌だったのですね。
表向きは、そこはかとない諸行無常を歌った風流な歌ですが、裏の意味は悲壮感漂う、死刑囚の歌だったのです。

それに、七文字なのはわざわざ並べ替えたのではなく、作法として七文字で書くのが当たり前だったそうで、このあたりの事情は、日本ペンクラブの該当ページに、よくまとめられています。


この歌の作者については、研究者がいろんな角度から検証を試みています。弘法大師空海とする説がありますが、この暗号文を見ると、全く空海とは思えません。

・いろは歌の作られた時代の人物
・無実の罪で流刑になった人物
・類い稀な歌の才能があった

今のところ、柿本人麻呂説が強く、中には菅原道真説もあります。しかし、国学者が注目しているのは「我が世誰ぞ 常ならむ」の部分です。
菅原道真は大宰府に流されて幽閉にこそなったものの、この歌の持つ背景とは少し違う感じもします。

普通に「この世の運命は誰にもわからない、常ならぬものである」という意味ならば、通常「我が世誰か 常ならむ」となります。

そこをあえて「誰ぞ 常ならむ」というのは、単に誰にも分からない、というだけではなく、「誰が栄華を極め続けられようか。お前たちだって全員、明日どうなるか分からないんだぞ」という、強い恨みに似たメッセージがこめられています。
となるとそこには、やはり悲惨な境遇に落とされた人物のイメージがつきまとって離れません。

柿本人麻呂は万葉集第一の歌人ですが、万葉集じたい、複雑な事情を持った歌集で、調べてみるとなかなか奥深い世界でもあります。
多くの歴史書や公的な文書類は、時の権力者に都合の良いように編纂されているので、そのまま信じると、とんでもない間違いを信じることになります。
そんな中で、貴賤を問わず直截な感情表現も多い万葉集は、一種ダークな色彩をも持っており、いろは歌と同様、深掘りするに値する世界でもあるのでしょう。

ちなみに、日本のわらべ歌も、そのままでは意味不明で、え?この歌詞ってどういうこと?と思うことが多いですが、深掘りするとかなり怖い話が沢山出てきます。
「はないちもんめ」「かごめかごめ」「てるてるぼうず」「通りゃんせ」など、とても沢山あります。

てるてるぼうずなんて、首をちょん切るなんて出てくるので、ずいぶん乱暴な歌だなあ、と子供心に思ったものです。調べたらこれ、実際に雨が止むように、あるお坊さんに祈祷をさせたけど、雨が止まなかったので、その坊さんの首をはねてしまった、という話です。

てるてる坊主 てる坊主 あした天気にしておくれ
いつかの夢の空のよに 晴れたら金の鈴あげよ

てるてる坊主 てる坊主 あした天気にしておくれ
わたしの願いを聞いたなら あまいお酒をたんと飲ましょ

てるてる坊主 てる坊主 あした天気にしておくれ
それでも曇って泣いてたら そなたの首をチョンと切るぞ


「てるてる」が晴れを意味するのは分かるけど、なんで坊主なのかなあ、と思っていましたが、じっさい、そうなんでしょうね。

わらべ歌まで行っちゃうと、暗号の話からは少々外れましたが、案外、童謡にも何か、裏の意味が隠されている可能性もありそうです。

このように、いろは歌は縦読みの暗号だったわけです。
新しいものでは、ネット掲示板で有名な、縦読み暗号文もありますので、ついでに紹介しておきます。新型コロナが蔓延し始めてから考えられたもので、なかなかよく出来ていると思います。

コロナウイルスってただの風邪の一種だよ
わかっていない馬鹿が多すぎる  
いつも通りに生活してればいいんだよ
予防の必要はないし、マスクもいらない

ただの風邪が少し変異しただけなのに騒ぎすぎ
すぐに病院に行く馬鹿な人もいるみたいだな
けど風邪くらいは、ほっとけば勝手に治る
手洗いと、うがいをしていれば、心配ない 


各行の最初の文字を縦読みにすればいいので、簡単ですね。
普通に横に読んで、向きになって反論するぼんやりさんも居たりしますが、いろんな国で、この方法は使われているようです。

アーノルド・シュワルツェネッガーなんて、カリフォルニア州知事時代に、縦読みすると「Fuck you」と読める州議会宛の書簡を出したそうです。いちばん簡単な暗号文ではありますが、この場合は、相手が縦読みであることを認識できないとつまらないので、簡単なほうがいいのでしょう。
まあ、議会も暴力で掴みあいの喧嘩するよりも、縦読みFuck youぐらいにしといたほうがいいですよね。

「2023年9月記」

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