日本はもともと、世界でも有数の地震国ですが、近年は更に地震が多くなり、地震の活動期に入ったと言われています。
筆者は九州の福岡生まれで、二十歳まで福岡市で育ちましたが、福岡時代には一度も地震を経験したことがなかったのに、最近は福岡でも、けっこう大きな地震が起こるようになりました。これはどうも日本列島全体の問題のようで、「大地のように揺るがず」という表現さえも、怪しくなってきた昨今です。
更に、2011年3月11日の大地震と津波に続けて起こった福島第一原子力発電所の事故で、東日本に限らず、国土が放射性物質によって広範囲に汚染されることが確定してしまった現在、家や分譲マンションを手に入れれば安泰、という考え方を捨て、住宅問題も大きく発想を転換しなければならないと思います。
筆者はもともと、不動産というのは人の運勢を食ってしまう側面が大きいので、あまり早く家を建てて落ち着こう、というような生きかたには異を唱え続けてきました。
関東地方どころか、あちこちで活発な地震活動が散見されるようになった現在、いくら耐震設計の建物が増えたと言っても、あまり長いローンを組んだり身動きの取れなくなるような生活設計は、考え直したほうが良いと思いますし、それにつれて、もっと借りやすく使いやすい賃貸住宅が増え、借りる際のルールなども統一されると良いと願っています。
しかし、大地の安定度が怪しくなってくればくるだけ、賃貸にしても分譲にしても、建物の強度や使い勝手に関する知識は、更に重要になってきます。そこで、駆け足ですが、地震に強い家、弱い家の判断基準を述べてみたいと思います。
マンションでも集合住宅でも基本は同じなのですが、一戸建ては全てが自分一人の責任ですから、万が一、液状化などの被害があっても、全て自分一人で解決しなければなりません。
同じ買うなら最初から一戸建て、という考えの方も多いようですが、住宅はある程度の経験を積まないと、見る目が出来ません。誰でも、何度か引越しをして、失敗したり成功したりしながら経験値を積んで、賢くなるものです。しょっちゅう引っ越すのは決して良いことではありませんが、安定とは何か?家を持つというのはどういうことか?様々な疑問が投げかけられるようになった昨今、賢明な判断をしたいものです。
マンションは自分で好きなように設計できないぶん、ある程度の強度を満たした基本設計がなされています。ですから、我侭がきかない代わりに、リスクも少ないということです。
このへんの信頼度は、デベロッパー選びの段階で、ある程度は既に決まってしまうでしょう。
注意しなければならないのは、中小デベロッパーの新築マンションです。中小だと、どうしても実績が不安ですし、新築マンションということは、今まで建物がなかった土地に無理に建てた可能性もあります。このあたりは、周囲の状況を見て判断するしかありません。ですから、土地勘のない場所にいきなり買うのは、かなりの冒険になってしまいます。
駐車場だった土地に建てる、という場合もあるでしょうが、周囲に家が建てこんでいるのに、なぜそこが駐車場だったのかを遡ってみると、沼だったという場合があるかもしれません。
しかしだいたいほとんどのケースで、同じ場所に建物を建てても、一戸建てよりはマンションのほうが地盤をしっかり固めてあります。今回の液状化被害でも、その傾向がはっきり出ているようです。
マンションが耐震構造になっているか否かは、建築時期で分かります。
1981年(昭和56年)以降に建てられた建物は、建築基準法の中でも新耐震基準に沿ったものになっている筈です。不動産業者から貰う資料も、間取りばかり気にせずに、こういう部分がちゃんと書かれているかどうかを確認して下さい。
また、耐震構造と言ってもいろんな考えかたがありますので、その内容を述べてゆきます。
建物の基礎構造部分を頑丈に作り、地震に耐えるという考え方です。柱や梁を太く頑丈に作り、あくまでも建物の強度で地震に耐えるという考え方です。その為、建物じたいはなかなか壊れないのですが、揺れそのものは防げないので、建物の高層界では揺れが大きくなります。
建物の構造部じたいは無事でも、上層の室内では家具が転倒したり、間仕切りや配管などにダメージを受けるのは避けられません。その結果、地震後には歪みが生じて、建物としての資産価値が無くなったり、家具の下敷きになって犠牲になる人が出てしまう場合があり、問題点は残ります。
1980年代以降、耐震構造のほかに、免震構造とか制震構造という考え方が出てきました。
免震構造とは、建物の基礎部分に緩衝体を設置して地震のエネルギーを吸収してしまい、建物を揺れから守るという考え方です。
緩衝体には、ゴムと鉛を組み合わせた積層ゴム、バネ状のもの、半球体と受け皿を使ったものなどが使われます。したがって、この免震構造の場合、建物はあまり揺れませんし、上層階での被害も少なくなります。緩衝体によって建物への影響が違い、それぞれ特徴があります。積層ゴムの場合はゴムが揺れを吸収し、鉛部分がゴムの不要な揺れを押さえます。バネの場合にはどうしても反発が伴いますので、揺れのコントロールが少し難しくなります。
半球体と受け皿を使う免震は、滑りを利用する免震です。地震の揺れに応じて受け皿部分だけが動き、半球部分は残る形になります。
この方法は、江戸時代から戦前まで使用されていた、日本の伝統工法である「玉石建て、礎石建て」と同じ原理です。玉石建ては礎石の上に直接柱を乗せるので、現代では倒壊の可能性が高いとされ、あまり使用されませんが、がっちり柱だけを立てるのではなく、根本をフレキシブルな構造にするという点では、考え方に共通点があります。
この免震構造の特徴は、建築コストがかかることと、風でも建物が揺れる場合があること、免震部分に余分なものが入っているぶん、定期的なチェックが必要になることなどのデメリットもあります。地震でも縦揺れには効果がないことも、デメリットの一つでしょう。
とにかく揺れを少なくするという考え方のもとに、地震のエネルギーを吸収する仕組みを備えた構造のことです。いろんな方法があり、電気を用いたアクティブ型の制震装置と、電気を用いないパッシブ型の制震装置に分類できます。
アクティブ型の制震は、ダンバーという、いわゆるショックアブソーバーを用いますが、この方法は電源の確保が必須なので、制御コンピュータの維持管理が必要になります。一方、パッシブ型では建物上部に重量のあるものを設置してその反力で揺れを押さえ込んだり、逆に弾力性のある資材を利用して揺れをエネルギーを吸収するなど、さまざまな方法があります。
この制震構造は、揺れを抑えるという面では効果の少ない方法とされていますが、オプションで制震装置の後付ができるというのは、大きなメリットです。
このように、地震対策にもいろんな方法があり、それぞれメリット、デメリットがありますので、建物に応じて一番向いた方法を検討することになるでしょう。
◆余談
少し話はそれますが、武道の道場で、時々、門人が集まり、手作りで道場を建てる場合があります。いわゆる昔懐かしい、剣術や柔術の町道場でしばしば見られた形ですが、生活の智恵で、この手作り道場が免震構造に似た手法を使います。
だいたいこういう団体はお金がないので、それを人力で何とかしてしまおうと、血気盛んな若者が集まり、取り壊し途中の家を見つけて廃材を担いできて道場を作ってしまいます。大工さんに頼むのは素人では難しい部分だけだったりするので、こんなところに頼み込まれた大工さんも、やや苦笑ものなわけです。
道場というのは、十中八、九が板張りです。中にはどっかの講道館のように、畳の下にスプリングが入っていて、歩いただけでプカプカする道場もありますが、剣術系や古流武術系ではだいたい板張りです。
その板張りの上で、切った張ったの稽古とか投げたり受身を取ったりするわけなので、当然、床も心配だし、怪我も心配です。
そこで、板張りの下がコンクリートだろうと土であろうと、基礎と板張りの間に古タイヤをきっちりと敷き詰めて入れます。こうすると、床の上で大男が受身を取っても、板に穴が開くこともありませんし、人間のほうも骨折することもありません。
いろんな場所を借りてあちこちで稽古をしていると、不慣れな初心者が凄い勢いで落っこちては、床や壁に穴を開けてしまうこともありますし、逆に体育館なんかだと、幾ら床にマットを強いても怪我の心配があります。固いコンクリートの上にマットを敷くと、表面がフワフワでも、まるで真綿で石をくるんだ武器みたいなもので、どうしても骨折事故が起こりがちです。
古タイヤはお金もかからないし、いろんな意味で優秀な免震構造だと言えるでしょう。
「2011年5月記述」
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