風水のルーツがお墓の相であることをご存知の方は、少なくないと思います。しかし実際の墓相に関しては、なかなか適切にまとまった資料が少ないので、少しまとめてみることにします。
無闇にオドシや迷信に流れることは本意ではありませんが、ある程度は、古来の先祖祭祀に関する常識は必要だと思いますので、基礎に重点を置いてまとめてみましょう。墓相の基礎となる考え方を知っておけば、オドシの霊感商法の類に引っかかることも無いと思います。
古書にはこうあります。
日本にては古く墓を奥津城(おくつぎ)と称し、家宅の奥所に築きて埋葬した。終わりを慎み遠きを追うは東洋の美風であって、崇祖と家門の尊重を一義となし、従って墓地に対する観念も、頗る崇高なものであった。墓所の調整と清浄とは、子孫繁栄の主要な原因をなすものと信ぜられるに至った。
墓相の悪しきは悪疾貧苦を招く。また火水盗難あり、甚だしき悪相であるときは家門は断絶するに至る。墓地は日蔭の土地、崖地、窪地、又はあまり公道に接したるは、皆な凶相である。墓の背面が低地となっているのも凶。吾妻鏡に、親の墓、高きところに在り、その下に住すれば子孫断絶すと見えている。
墓石は奇形を忌む。文字の正しきを尊ぶ。墓地は不浄を忌む。それゆえ香木、香花を植え、清浄の霊域となし、毎月一回日を定めて清掃し、霊祭の儀を申ぶべきものである。その土地が狭く、墓石が多きに過ぐるならば、集めて整理するがよい。英秀のもの出ずといえども、親の墓より壮大にしてはならぬ。(要旨抜粋)
以上のように、墓相の基本はだいたい決まっていますし、気学や風水が知られるようになった昨今でも、墓相はややハードルが高いのか、あまり自己流の通説が出回っていません。そこで、なるべく基本に沿って、概略を述べたいと思います。
何故お墓を建てるのか、という基本的な理念を考えてみたことがおありでしょうか。お墓というのは、過去、現在、未来へと人や家族の糸を繋ぐものです。ですから、未来への意志や将来性もなく、固定化、儀式化してしまうものではありません。お墓の維持はある程度は義務でもありますが、それは子が親の恩を思って崇敬し、その歴史を自分の子や孫へと繋ぐ為の、一つの形です。
もう一つの意味は、前述の通り過去から未来へと生を引き継ぐものである以上、お墓を無闇に立派にしたり、極端に保存性の高い構造にすべきではありません。お墓というのは、本来は人の肉体や思いを、スムーズに自然に還してあげる為のものです。特に、お骨をいつまでも自宅に保管していることは避けるべきです。
こういう基本を考えると、日陰のジメジメした土地に苔むすお墓を作り、どんどんお墓が増えて墓石が混み合ったりというのは、不自然な状態にほかなりません。
また、幾ら火葬だからといっても、大理石の立派な骨壷にしっかりといつまでも遺骨を保管しておくというのも、おかしなことではないでしょうか。お墓はアンティック製品や貴重品ではありません。移ろいゆく人間の生業の一部であり、本来は自然の法に委ねるべきもので、保存が目的ではありません。
そう考えると、本来は、陶磁器などに収めるよりは、木箱に収めて早くスムーズに自然の土に帰るというのが理想的な形です。都会の墓所では致し方なく、扱いやすい壷に収めて一定期間保存した後、しかるべき方法で処分しますが、田舎のある方は、できるだけ上記のような原則を踏まえておかれると良いでしょう。
立派な大理石の壷にしっかりと収める、というのは、お墓の原理原則、目的から言えば、非常におかしなことです。
◆石塔の形と意味:和式のお墓では、石塔は必ず三段重ねにします。これは、三段の石を「福・禄・寿」に当てるからです。
下段は福=資産の持続を意味します。
中段は禄=家業の盛衰を司ります。
上段は寿=子孫の繁栄と血統の持続を意味します。
三段以上、四段、五段と積み重ねたり、いたずらに高いのはよくありません。
◆墓石の大小:一家の中で特に出世したり有名になった人が居ても、その人のお墓を特に大きくするのは凶相になります。その人の出世も、つまりは先祖の遺徳と加護のお蔭と考えると、子孫の墓石を先祖よりも大きく造ってはなりません。
◆墓石建立の時期:墓石は子孫がこれを建立するのを基本とします。親の墓を子が建て、子の墓を孫が建てるのが基本です。
※戒名は墓石とは違い、本来は生前に本人が貰うべきものです。戒名というのは、仏様の弟子になって仏門に入り、戒律を守る誓いを立てた、ということでつけるものですから、亡くなってから戒名をつけるのは、本来は遅いのです。お金で買うものでもありません。(かと言って、仏道の修行をする気が無いのに戒名だけを貰うのもおかしいですが)
◆墓石の風雪:石碑は常に大切に扱い、清浄に保たねばなりませんが、保存の意味をはき違え、頑丈な箱を作って収めたり、屋根を作るのは祭祀の本質からいうとおかしなことです。自然のままにあるのが本来の姿で、特に強風にあおられたり汚れたりしない、穏やかな土地を選んで建立すればよいことで、ある程度は穏やかに風化してゆくのが自然の姿です。
◆骨壷と納骨堂:前述の通り、お墓は移ろい引き継がれるのが本来の姿ですから、大理石や焼き物の壷ではなく、木箱に収めて直接水はけの良い墓所に入れ、スムーズに土に返すべきものです。石やコンクリート製の納骨堂なども、本来のお墓のあり方ではありません。
◆墓地の広さ:広すぎず、狭すぎないことが原則ですが、一代限りのものではないので、ある程度の広さが望ましいものです。一説では十代三百年と言い、十坪から十五坪が理想的です。
◆墓地の地相:くぼ地、崖下、背面が低地である場合は凶相です。北が高く南が開けているのが風水の四神の原理なので、北の山を背にして南〜南東の開けた場所が一番吉相です。石ころの多い土地、湿地、不浄の場所、山頂も凶相。水溜りがあったり穴を掘ったりした場所も凶相です。
◆墓地の向き:南向き、南東向き、東向きが最良です。墓所の入り口や墓石が北、西、北西、南西、北東向きは凶。また必ず墓の入り口は墓所の中央であり、隅に寄っていないことが大切です。
◆墓所の地面:墓所に小石を敷き詰めたりコンクリートで固めてしまうのは凶です。墓所の目的と由来を考えると、痩せたり石ころがゴロゴロしていない土質の良い土地で、ほどよく土が呼吸していることが必要です。雑草が多少生えるのは当然で、適度に草むしりや掃除をするのは当たり前の手間です。
◆樹木:樹木はあまり植えないのが原則です。樹木があると、蔭が出来て陰の気が強くなります。特に大木は避けるべきで、植える場合でも墓石よりも背の高くならない灌木に留めます。
◆周囲の囲い:墓石の中段よりも高くしないこと。囲いの資材はレンガやコンクリートや石は避け、鉄柵も絶対に使用しないこと。区切りは7〜8寸程度の自然石、又は灌木を使用します。
◆墓石の形:長方形であること:棹石(上段の戒名を書く石)、中段、台石とも長方形であること。自然石の形状をそのまま使ったものは、一見風流には見えますが、行き倒れ、変死者など、正当な施主のない場合に、致し方なく自然石を流用したものとされ、凶暗示があります。
◆奇形は凶:丸い形、何かをかたどった奇矯な形などは全て凶です。尋常な長方形を旨とすること。
◆華美と高低を避ける:周りよりも高く土を盛り上げることをしない。また、窪地、低地ではなく、周りの形状に添っていること。石塀、灯篭など、周囲よりも贅沢で目立つ拵えのものを使わないことも大切です。
以上、だいたいのお墓の建立に関する原則ですが、更に注意点を述べます。
■一人一基:何々家先祖の墓、何々家先祖歴代の墓というのは便利ではありますが、一人一基が原則です。
■婚いだ子女の墓は:いったん他家に嫁いだり養子に行った子女は既に行った先の家族です。万が一、早世した場合でも、短期間でも他家の者になったのですから、行った先で供養すべきです。ただし、離縁して復籍した場合はこの限りではありません。
■正副の別:正夫人でない者が亡くなった場合、公然と承認された関係であっても、正妻の墓域内にその墓を建立すべきではありません。埋葬し供養することそのものは大変良いことですが、ものごとの順序という点から見ると、正副の別はきちんと区別すべきです。
■本家と分家……本家と分家との墓を、同じ境界内に建てることはできません。分家する場合には、同時に新しく墓地を定め、分家に新仏のできるまでは、角塔婆を建てて先祖を祀るようにします。
■大小の比率……分家の墓は、本家のそれよりも小さ目にすること。たとえ分家が栄えたとしても、財力にまかせて本家以上に広大な墓を建立するのは凶相になります。娑婆世界の財力や毀誉褒貶は祭祀の世界では通用しません。
■子供の墓……十五歳未満の子供で、居士、大姉、信士号などのつかない場合は、その碑面に地蔵菩薩の尊像を刻みます。また十五歳以上であっても未婚の女子の場合に限っては、観世音菩薩像を刻んでも差し支えありません。
■墓石の修理:長い年月の間には損傷する場合もありますが、自然の風化以上に欠けたり亀裂が入ったり崩れたりしないよう、良質の石材を選ぶことが大切です。修理する場合、墓石の接着にセメントは使いません。どうしても修復が必要な場合は、石を使って差し込み式で修理すること。
■もし碑面が風化して文字が読めなくなったり、棹石や土台が欠けたり崩れたりした場合は、できるだけ早く修理します。崩れたり欠けたり、傾いたままで放置することは極力避けます。
■墓石の色彩:色彩に関しては、青色、黒色(黒御影石)、紫色、赤味がかったもの等、その他特別の色彩あるものはすべて避けること。風化の恐れの少ない白色が最良で、あまり強度に磨きをかけて鏡のように光らせるのも良くありません。しかし自然石の荒削りもよくないので、適度に自然な磨きをかけたものにします。
以上、あまり「決まり」というものに囚われるよりも、原理原則を基準にして考えてみると、墓相というものが理解できるかもしれません。かなりの部分、住む家の家相の判断基準と重なる部分もあります。生きている人が住むのは陽宅、亡くなった人の棲家は隠宅、という点を考えても、共通点が多いのはもっともなことなのですね。
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