これから不動産を購入する計画を建てている方から、運勢的に何時が良いのだろうか?というご相談はよく受けます。でも多分、当人も運勢を気にする前に、不動産価格を気にしていて、その上乗せぶんとして、運勢を見たい、ということだと推測します。
しかし中には、定年が近いのでその前にローンを組みたいとか、子供が入学するのでそのタイミングに合わせて、という方もおられます。
これは少々勿体ない話で、自分の都合は別にして、やはり市場動向というのは、常に注視しておく必要があります。少々高値掴みになりそうなタイミングなのは承知の上で、その上で気に入った物件が見つかったから、とかいうのは全く問題ないと思います。
不動産というのは、完全に「縁のもの」ですから、どんなに気に入った有力な物件であっても、縁の無いものは手に入りません。
でもやはり、物件の選択肢の多寡や価格のことは、自分で納得した上で、購入したいですよね。そこで、賢明なる読者諸氏には、不動産価格について、抑えておくべき基本を整理した上で取り組んでいただきたいものです。予め申し上げておきますと、市場経済的な観点とは別に、購入を検討する人が絶対に守るべき点が幾つかありますので、それを先に。
1、不動産には掘り出し物は無い!ぜんぶ、価格なりです。よほど怪しい会社とか特殊な状況でない限り、価格は物件と見合っています。
2、たまたま見に行ったら気に入った、縁がある気がして惹かれた、担当の人がとても親切で信頼できそうに感じたetc…これらはぜんぶ、無し!気に入ったとか惹かれた、というのは、あなたの気のせいです。担当の人が親切なのは当たり前で、それが仕事ですから、対応が悪ければ疑うだけですが、親切で信頼できるのは当たり前です。
3、人気物件だからすぐに売り切れると言われたし、見学に行ったら、実際に他にも見学に来ている人が居た。これ、最近はどうなっているか知りませんが、前は時々聞きました。そのカチあった見学者って、サクラという可能性はありませんか?筆者が聞いたのは、別の物件を見にいったら、前にカチ合った見学者と同じ人とまたカチ合ったので、あれ?と思ったら、あちこちでそういう現象が起きてたみたいです。
サクラを使ってるからと言って、必ずしもその物件がダメという訳でもありませんし、直感や第六感を否定はしません。しかし、第三者として見ると、良い点ばかり見てすぐに気に入ってしまうのは、少し危険な兆候です。
要するに、気分や欲に振り回されずに、客観性を持ちましょう。ということですね。
前置きが長くなりましたが、不動産価格はずっと上昇を続けていて、特に首都圏の値上がり具合は著しいです。物件タイプによっても違い、値上がり率の激しい順に、マンション>戸建て住宅>住宅地の順となっています。
日本はいっこうに景気回復してないのに、何で?と思いますよね。最近は衰退途上国なんて嫌な別名を頂いている日本ですが、各国GDP…何でしょうかこれは?データの取り方によって多少の違いはあるようですが、アメリカと中国の異様な伸び方…欧州はけっこう厳しいんですね。
まあ、GDPとかインフレ率とかいろいろありますけど、とりあえず、日本の成長率は低いし、物価高なのに賃金上がらない、それにも関わらず、住宅価格だけ爆上がりって、何故?どうして?なして?なんごと?って思いますよね。
これじゃあ、結婚もできない子供も作れない、少子高齢化が進むばっかりです。
実はですね、上記の愚痴っぽいボヤキの中に、住宅値上がりの回答が隠されているんです。
いちばん、市場の動向を反映しやすい、と言われる、中古マンションに的を絞って述べます。
住宅に限らず、モノの値段は需要と供給のバランスによって決まります。当たり前ですね。じゃあ、日本は少子化で人口減ってるのに、何で住宅の需要があるの?
はい、需要はあるんです。住宅の需要って、人口ではなく、所帯数で決まります。ですから、賃金上がらない、一生バイトかも、結婚なんて出来ないし、子供持つなんてとてもとても、という一人暮らしが多ければ、所帯数は増えて、住宅数の需要は多いんです。
一所帯あたりの構成人数は、手元の資料では2019年時点で全国平均平均2.18人。
都道府県別では、最も多いのが、福井県=2.66人、山形県=2.64人。
最も少ないのが、北海道=1.907人、東京都=1.909人。
これ、1989年(平成元年)には平均3.02年だったので、2019年2.18人って、30年ばかりで約1人減ってるんですね。
核家族化が進み、みんな進学や就職で一人暮らし始めるケースが多いのは分かりますが、この変化って恐ろしくないですか…。
空き家率が増えている、という報道もありますが、筆者は必ずしもそうは思いません。地方の古家は空き家になっているかもしれませんが、現役世代の住宅や、年取っても利便性の高い住宅は、決して余ってはいません。
人口減少にも関わらず、住宅数の需要は決して減っていない、と述べましたが、次に、ここまで値上がりしている原因は、ズバリ「低金利」です。
これは、皆さんすぐに分かりますよね。金利が高いとローン組むのにためらってしまう、低金利だと、とても買いやすく感じます。買いたい人が多ければ、値上がりします。
おまけに、アメリカや欧州が金融引き締めで金利をどんどん上げれば、超低金利どころか、一時はマイナス金利だった日本なんて、円がどんどん売られます。もう、緩和ユルユルの大安売り。
だって、ドル円で考えれば、買った場合はドルと円の金利の差額が儲かるわけですから、誰だって円を売ってドルを買いたくなり、市場は円安に傾きます。
ところが、円安が進めば、海外から買い入れる資材の価格は、円換算では高騰してしまいます。
100ドルぶんの物を買おうとすると、1ドル100円の時には1万円払えばいいわけですが、1ドル150円になると、1万5000円払わなければなりません。
こういう条件で、住宅価格が高騰しているわけです。
物価に連れて高騰するのは分かりますが、それ以上に高騰していて、今の時点では留まるところを知りません。
そこで、と言うにはかなり力不足ですが、価格が高騰する中でも、少しでも良いタイミングで住宅を購入できるように、研究してみましょう。
安くなるまで待ちたい、とは思っても、個人それぞれ都合があるでしょうし、あまり年取ってから買ってもしょうがないわ、と思う方もあるでしょう。
まず、自分に必要なタイプの価格推移グラフを準備します。可能なら月ごとのものがいいのですが、たぶん四半期ごとの統計になっていると思います。
上は、全国〜首都圏〜近畿圏など、地域ごとのマンション平均価格推移です。
これを見ると、東京23区の値上がりぶりが突出しているのが分かります。
しかし、その価格推移にも波があるようです。もう少し細かく見てみましょう。
2016年〜2020年のマンション取引価格 | 2021年4月〜9月のマンション取引価格 |
このグラフを見ても、年単位のほうは平均化されてしまってよく分かりませんが、月単位で見ると、ずいぶんと上下動があるのが分かります。それも、値上がりの激しい東京23区ほど、上下動も激しくなっています。東京23区など、2021年の5月と8月では、3,000万以上の開きが出ています。これは、年単位で平均してしまったり、ニュースで見聞きするだけでは、全く分かりませんね。
不動産価格にはいろんな要素が絡むので、物件の広さや場所ごとに、もっと細かく見る必要があり、自分が狙っている地域の狙っているタイプの物件価格を、毎月調べてグラフにしてみると、如実に分かる筈です。
そして、上下動のサイクルを見ていれば、今度はいつぐらいに買い時がくるのではないか、と予想することが出来ます。簡単ではありませんが、少なくとも天井価格で契約してしまって、3カ月後になって臍を噛むようなことがないよう、よく市場の動向をも見ておく必要があります。
それでは、グラフの判断のしかたと、サイクル分析の方法をご紹介しましょう。
東京都のぶんがジグザグが大きくて見やすいので、これを使って説明しますが、あくまでもこれは線の引き方やサイクルの見方であって、東京都全体の価格平均を見ても、ご自分の望む物件とは、まったく違う値動きである可能性が高いです。
このぺーズでノウハウを把握して、自分の狙う地域、タイプの物件価格の推移を、同じ方法で判断してみて下さい。
1、まず、トレンドが上昇方向、というのは分かりました。いくら安く買いたいと願っても、今後しばらくは、2012年ごろの価格で買うことは出来ません。上昇という前提で、上向きの線を引きます。赤い線が二本引かれていますが、下側の線を見て下さい。
2、下値を狙っているので、グラフの下値をつないだ線を引いています。ここは迷いやすいのですが、ポイントとして目立つ下値を抑えたら、異常値ぽく極端に安い価格帯は、下に飛び出したままにしておきます。2011年〜2014年ごろの安値は下値のラインを割っていますが、確かにこのあたりは買い時です。(買い意欲があったかどうかは別です)
3、下値を結んだ線と並行に、上値ポイントを結ぶ線を引きます。綺麗に赤いラインに添わずに、凸凹が出来ますが、このままで大丈夫です。赤い二本のラインは並行であることが重要です。
4、目立つ下値に緑の縦ラインを引いてゆきます。まず起点となる過去の見やすいポイントを決め、そこからなるべく等間隔に縦線を引きます。なるべく、大災害などの異常な出来事があった時期は基点にはしません。そうすると、間隔はきっちり40カ月ごとになりました。
5、サイクルが40ヵ月とすると、次の下値が来る目安は2021年第一四半期頃かな?という予測がつきます。四半期ごとにグレーの縦ラインがありますが、これの10本ぶんが40カ月です。じっさいはどうだったでしょうか?この下のグラフでだいたい想像がつきます。
6、上昇の場合は、下値、つまりここよりも下がらない、ということが重要なのですが、試しに上値を基準に引いてみます。ピンクのラインです。このピンクラインを見ると、上値には届くが下値ラインにちっとも届かなくなっている、ということが分かります。価格がずっと、二本のピンクラインの中間よりも上に居ますね。上昇トレンドの時にはここよりも下がらない、ということが重要で、下降トレンドの時は、ここよりも上がらない、ということが重要になります。ですから、このグラフに於いては、ピンクラインは参考で、赤ラインを重視します。
7、ジグザグの形を見ると、2011〜2014年頃の安値付近では、ずっと低価格帯でぐずついています。2019年からの高値圏では、上昇は続いているものの、ジグザグの波がやや小刻みになりはじめています。やや落ち着きはじめたのかな?という感じです。しかし落ち着いてから下がるのかというと、前述のとおり、低金利が続く限りはなかなか大きくは下がらないでしょう。下側の赤いライン付近まで下がる可能性はあっても、このラインも上向いているので、何か材料がない限り、上昇は続くと思われます。しかしその中でも、最善のタイミングを探す努力は必要ですね。今しばらくは、マンションでなくても良いのなら、上がってはいるものの、宅地を取得しておくのも、選択肢に入ってくるかもしれません。
8、大きな波になっている時期に何があったのか、下の表で見ることが出来ます。2008年〜2009年はリーマンショック、2011年は東日本大震災です。こう見ると、やはり住宅価格にとっては、地震よりも金融業界の事変であるリーマンショックの影響が強かったのでしょうか。もっとも、大きく落ち込む前には大きく上昇しているのですね。
東日本大震災の時には、政府の補助金がだいぶ支出されましたから、各地のデベロッパーはむしろ景気はよかったと記憶しています。一般人が新しく住宅を購入する気になったかは疑問ですが。
ここ3年余りのコロナ騒動は、いろんなものが膠着状態になって動かなかったのでしょうか。他の業界で見ると、また違うのかもしれません。
ただ、このまま上がり続けるかと言うと、アメリカと中国が、どちらも大きな不安材料を抱えているので、その点は十分に警戒する必要があります。私たちには外国の実情を正確に把握することは出来ないので、各種の数値を見るしかありません。
その際に、急激に上がったら、次は急激に下がる可能性がある、と予測ができます。リーマンショック時は、ショック前にバブル的な高騰を見せており、ショックが来るには、それなりの下地が出来ていたことを物語っています。
しかし、これらのグラフを冷静に観察すると、相場格言である「人の行く裏に道あり、花の山」というのは真理であることが分かります。
群集心理や世間のムードに流されてはいけない、自分の頭で考えろ、という戒めでもあります。もっともこの格言はその後に、「いずれを行くも散らぬ間に行け」と続くので、タイミングを外しては何にもならない、という意味もこめられているのですが。
今回使ったグラフでは、たまたま40カ月周期になりましたが、一般的には日本の不動産市場は、7年サイクルだと言われています。今回はもっとずっと細かいタイミングを見ていますし、不動産全体の話ではなく、マンションを例に取っています。
7年サイクルというのは、たぶん下値ではなく、上値の話だと思いますし、全国平均でしょうから、個人にとってはそれほど役には立たないでしょう。やはり、自分で調べて、グラフにしてみるのが良いですね。
また、土地も新築マンションも、すべて含めた数字と、自分の欲しいタイプの不動産では少し違う筈です。
不動産購入を検討されている皆さんは、買い時を以上のような方法で検証してみて下さい。もちろんその前に、方位を見て狙う地域を決めておかなければなりませんよ。その上で、根気よくリサーチを続けましょう。
最後に、少しおまけの話として、金融にまつわるあるエピソードを付け加えておきます。
筆者はホラー小説やホラー映画が大好き!
平和な日常には、ホラーぐらいの刺激がないと物足りないですね。もう、DVD棚と書棚は、ホラー映画と小説で溢れてます。
と、いつもの通り、脱線気味で違う角度から入るので、金融とホラーに何の関係があるんだ!と怒られそうですが、まあいつものことです。それらの愛読書の中に、貴志祐介の「天使の囀り」という小説があります。
この作品から抜粋します。ヒロインが、昔の知人男性と偶然出会い、その男性が妙に羽振りが良くて、株で儲けたんだ、という話をするシーンです。ここで紹介するエピソードには、怖い部分はありませんのでご安心を。
人間というのは、一人一人は賢くても、群衆になったとたんに、愚かな行動を取る傾向があるのかもしれない、と彼女は思った。
ヒロイン「物語?」
物語はこの後、佳境に入るのですが、この部分を引用したのは、モノの市場価格は、経済学などの根拠があって決まっているわけではない、ということです。ほとんどが大衆心理、ムードによって決まっているので、大きな物を売買する時には、その原点に立ち返り、決してムードに流されてはいけない、ということです。
もっとも、最近は株式市場も為替市場も、このような大衆心理を計算に入れたAIが、市場を牽引しているという話もあります。ただ、今回紹介したような簡単な分析方法でも、基本を抑えればちゃんと通用するし、AIと言っても結局は人間の作ったものであり、人間の行動に添って稼働している、ということです。
この「天使の囀り」はけっこう強烈なホラーなので、ホラー初心者にはお勧めできませんが、大丈夫な方はどうぞ手にとってお楽しみ下さい。
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