人間はこれまで、地球の外側〜宇宙〜には、大いに熱いまなざしを向けて飛び立ってきました。宇宙の謎に関しては、ビッグバンにまで到達してきました。
しかし地球の内部のことはほとんど知りません。99%が未開拓で、ほんの表面をかすった程度。多くの洞窟も未探険のままで、一番深い地中探険で1,6キロです。
日本で一番深い鉱山は八戸鉱山の160mですし、世界で一番深い鉱山は、南アフリカのタウトナ鉱山が3,7km。
ロシアのコラ半島で、学術調査目的で深さ12kmというボーリングを行ったそうですが、一番下はいったいどうなっているのでしょうか。地殻の厚みは大陸部で30km程度、大洋地域で5キロとか言われていますが、まさに地獄の穴ですね。
どちらにしても、地球の半径は6,370km余りですから、これだって表面にピンを刺した程度のことでしかありません。
地球内部の探訪が進まないのには、無理もない理由があります。地球内部はとてつもない高温で、かつ高圧です。
温度は約5000〜6700度と言われていますが、これは太陽の表面温度と同じです。
内部の圧力は地表の360万倍だそうです。とても人間の近づける世界ではありません。
しかし、磁力のことを学ぶにあたって、欠かせない知識ですので、少しだけ、地球の構造を学びます。
地球の現在の構造は、太陽系の誕生から始まります。太陽系が生まれた時、衝突によるとてつもない高温で、地球は溶解しました。ドロドロに溶けたのです。
それが表面から順番に固まり始めましたが、固まったものが表面で岩石の層となり、内部は熱いままになりました。表面の岩石層はそのまま、内部の高温層を覆う断熱材の働きをし、地球内部には熱が閉じ込められたままになりました。
この内部にあるのは、太陽と同じ構造物で、簡単に衰えることなくエネルギーを発生し続け、いわば地球内部は巨大な原子炉状態なのです。
外から地殻、上部マントル、下部マントル、外核、内核 | 地球と磁力線 |
地球の構造は、玉ねぎのようなもので、何層にも構造物が重なっています。図のとおり、一番外側が地殻で、これは岩石層です。その上を、大陸や海洋が薄く覆っています。
その次は上部マントル、次が下部マントルです。マントルとは「覆い、外套」の意味で、着るマントと同じ意味です。このマントルも岩石層ですが、地殻の岩石とは少し成分が違います。
マントルは下部に行くにつれて、当然ながら、温度も密度も上がってゆきます。
マントルの更に下にあるのが、いよいよ地球の中心部である地核=コアです。このコアは、外核(アウターコア)と内核(インナーコア)に別れます。
外核は金属流体で、内核は金属固体です。どちらも鉄がほとんどですが、外核は溶鉄とニッケルの流体だと言われています。外核では、この膨大な量の金属流体が、常に凄い勢いで回転しています。
この外核こそが、磁場の発生源です。
何故、外核が磁場を形成するのか、ある実験が行われました。
地球を模した球体に液体を流し込み、1秒間に30回の割合でそれを回転させました。この実験には、鉄と似通った性質を持つ、ナトリウムが使われましたが、その結果、ミニ外核表面には電流が発生して磁力線が放出され、見事に地球と似通った磁場が、実験室内で形成されました。
しかも、磁場は不安定で不規則ですが、大気圏のような不規則さとはまた違うことが確認されたのです。
一つの特徴は、地球表面の磁場にひずみが出来たり、しょっちゅう変化すること。
もう一つの特徴は、極付近=つまり、回転軸の中心付近から、磁力線が出たり入ったりするということです。
この、北極と南極で宇宙線が大気圏と触れ合う為、不可思議な現象が見られます。オーロラです。
地核から放出された磁力線は、大きなエネルギー波として南極を通って外部に放たれ、数千キロも宇宙を飛び交った後、北極を経由して外核まで戻ります。
図は簡単そうに描いてありますが、実際これに近い状態で磁力線は地球内部から飛び出します。しかし幾らかのひずみがあります。
このひずみは、長年にわたって観測され、研究されてきました。
磁力は頻繁に変化する部分と、比較的に安定している部分があります。もう少し具体的に言うと、磁力を放出する部分と内部に戻ってゆく部分があるのですが、南大西洋ではかなり変則的で、磁場も弱いことが観測されています。磁場の弱い部分=穴は、だんだんと西へ広がり、磁場の更なるひずみを生み出しています。危険な海域として知られるサルガッソ海やバーミューダ・トライアングルも、この付近です。
南太平洋もまた、磁場の不安定な場所です。火山の多いハワイ諸島は磁場のデータベースとしても知られ、7000万年ぶんのデータがあります。マグネタイト(磁鉄鋼)も発見されています。
さて、この磁力、磁場は、常に動き回っていることは、お分かりいただけたでしょうか。液体金属が、地球内部でもの凄い勢いで回転しながら、磁力線を発生し続け、その多くが北極と南極から出たり入ったりしている上に、他の地域でも少なからず影響を与えながら動き回っているので、磁場の強さもその位置も、当然ながら偏角や伏角も、変化し続けているのは当然です。
それでは、この磁力、磁場はどんな働きをしているのでしょうか。実は磁場こそが、地球の生命を守り育んでいると言っても、過言ではないのです。
地球内部は原子炉状態で、外核の溶鉄が物凄い勢いで回転しながら、磁力線を発生し、地球表面に磁場を形成している。それはどんな役割をするのでしょう。
まず、磁場が無くなると、空気と海洋を地球表面に引きつけておくことができなくなります。空気と水が無くなれば、当然ながら生命は存在することが出来ません。
次に、宇宙線を遮るものが無くなり、地球表面は大量に被曝します。太陽は核融合活動を続けながら放射線を発生し、それは太陽風として地球表面まで届いていますが、磁場が形成する大気層に遮られているので、生命を脅かすことはありません。
私たちは意識しないままに磁場の中で生活しており、磁場の発生源である地球のコアが、生命を維持するのに、大きな役割を果たしているのです。もし、磁場が消滅したら、生命も存続することが出来ません。
ところが、この磁場がどんどん弱くなっている、と研究者たちは言います。過去150年で、南北両極の磁場の構成要素が10%失われたそうです。磁場がそう簡単に無くなることはないだろう、と私たちは思いますが、磁場が弱まってくると、一つ問題が発生します。
磁場の逆転現象が起こりやすくなるのです。磁場の弱まりは、逆転の兆しの一つと言われています。
なんだかSFっぽくなってきましたが、磁場逆転とは何でしょう?文字通りS極とN極が入れ替わることですが、この過程でけっこう様々なことが起こります。
逆転するということは、あちこちで磁力が不均等な状態になっているということです。まず、磁力を消失する場所が出来てきます。一時的にあちこちに「極」が出来ます。極付近では、オーロラが発生するかもしれません。
遠い遠い未来の話かもしれませんし、すぐに急激に起こるかもしれません。地球の生命は人間の生命とは単位の違う長さですが、これまでに170回、磁場の逆転が起こっています。
地球誕生に遡って計算すると、平均20万年に一回の割合だそうです。今は前の磁場逆転から78万年過ぎています。その為、いつ起こってもおかしくない、と考える人達がいます。そういう彼らが、鵜の目鷹の目で地球上のいろんな変わった兆しを探し続けていて、それが終末説を生み出しているのでしょう。
実際は、本当に磁場逆転が起こったとしても、現象は段階的限定的に発生し、その影響は限定的だと考える人も大勢います。地球の歴史を紐解いても、地磁気逆転によって生物が大量死したという痕跡は発見されていないということです。ただし、電子機器への影響は完全に避けるのは難しいかもしれません。場合によっては、私達の生活は、少し後戻りしてしまうかもしれませんが。
まあ昔に逆戻りしたならしたで、生活をシンプルにすればいいことですし、取り越し苦労をしてもしょうがありません。
ただ、偏角を○度、と決まりきった覚え方をしてしまうよりは、地球スケールの想像に思いをめぐらせるほうが、楽しいですね。
偏角はどんどん変わるのだ、ということを説明するのに、ずいぶん話が飛躍してしまいました。しかし、風も水も、磁場が無くなったら存在出来ないので、風水学どころではありません。磁場や偏角の発生要因にも関心を向けていただくと、より理解が深まることでしょう。
ドキュメンタリー『サイエンス・ワールド』シリーズ『地核』(ナショナル・ジオグラフィック)
映画『ザ・コア』(あくまでもフィクションなので、頭を空ッぽにしてお楽しみ下さい)
「2015年5月記述」
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