抜歯がえらい難行苦行だった(汗)
タイトルの通りだが、私はもともと、眼と歯はかなり優秀なほうである。眼の話はおいといて、子供の頃はしょっちゅう歯のコンクールに出ろ、と言われていたぐらいだし、大人になってからも、どこの歯医者でも、「この歯はとても良い歯だから一生もつよ、大事にしてね」と言われるのが常だった。もともと歯の質が良いと、歯医者さんのほうでもやる気になるのか、採算度外視でとても丁寧にメンテナンスしてくれるので、その辺りはかなり、得をしている。
ところが、二十歳の時に、出産のせいか、奥歯が一本、虫歯になってしまった。この治療の時に、勢いで歯の神経まで取ってしまった。
これが災いして、この一本だけ調子が悪いので、注意してはいたのだが、近年に至って高齢者の仲間入りをすると同時に、この歯が内部で割れてきた。こうなってしまったら、後は抜くしか無い。
最近、体調がどうも優れないのも手伝ってか、食欲が落ち、ダイエットでは済まないぐらいに体重が落ちてきているので、早く対処したほうが良いような気がしてきた。
いや、この歯のせいで、体調不良が加速しているような気もする。
食事をすると、妙な金属的な味がしたり、苦味を感じたりもするので、これを先延ばしにするのは、良くないような気がして仕方がない。
行きつけの歯医者さんにそう話をすると、「じゃあ、抜きましょう」というので、予定を決めて、いよいよ抜歯とあいなった。
抜歯はもちろん、永久歯になってからは初めてである。
鉗子で挟んで、強く引っ張れば抜けるよね。
痛まないように、麻酔もするよね、ダイジョブ、ダイジョブ。
ということで、笑気ガスを吸い、部分麻酔もしてから、先生が鉗子で歯を挟んで、左右に少し揺らす。
揺らして歯が根っこから緩んできたら、そのままエイヤッ!と引っこ抜けば抜ける、ってわけだよね。
左右に、少しゆらゆらと揺らします。…全然、びくともしない。
もともと、傷んで抜けそうになってる歯ではないので、なかなか動かない、緩まないのはしょうがないか。
何度、揺らしても、全然動かないので、今度は強く挟んで、そのまま引っこ抜こうとします。
…まるっきり、ビクともしない。
その後、三回ぐらい、揺らすのと引っこ抜くのを試したけど、ほんとにまるっきりビクともしません。
「こりゃあ、歯と骨がくっついてるね。歯茎を切開してから、歯と骨を切り離さないと駄目だ」
えええっ!…まあ、しっかり麻酔が利いてるので、痛くはないんだけど、何をされてるのかは分かるし、なんか大変なことになってるみたいだ。
それから、歯医者さんも私も、悪戦苦闘になった。
歯の被せ物を、何かで挟んでバキッと割る。
口じゅうに、被せ物の破片が飛び散る。
「飲み込まないでね。痛かったら、手を挙げて合図して」
何度か、このバキッ、バキッをやったあと、ウイーン…で削ったりもしつつ、歯茎を切開して、根っこの部分に何かを差し込んで、歯と骨を切り離しているようだ。
なかなか取れない…。
ここまでで、既に30分以上経過。私はストレスと疲れで、かなり参ってきた。
口を開けてるだけでも疲れるのに、慣れないことをされるし、不安でもあるので、ストレスMAX。足の指をギュッと丸めたり、体のあちこちが緊張してきた。肩をすくめてギュギュギュッと我慢してるのが、自分でも分かる。
「大丈夫?」とひっきりなしに声がかかる。
そのたびに、「アー」と、いちおう返事をするのだが、時間が経つにつれ、この状況を我慢するだけで精一杯になり、なかなか返事が出来なくなってきた。
「だ、大丈夫?!生きてる?!!!」
思わず笑ってしまって、変な声が出た。
それからも、根っ子部分の破片を取るのにずいぶん時間がかかり、かなり強くほじくられるので、けっこう痛くなってきた。
「アッ!」
と言って軽く手を挙げる。
「ここ、痛いか…」
とか、先生はいちおう言うが、途中でやめる訳にもいかないので、そのままほじくり続ける。
骨と癒着してるって、この部分なんだろうから、なかなか取れないのは当たり前だよね。
そうこうするうちに、やっと決着がついて、さしもの頑固な歯も、割られたり削られたりほじくられたりして、バキュームに吸い取られ、姿を消してしまったらしい。
歯茎を縫合して、目出度く終了。
「大変だったねー、疲れたでしょう」
「疲れましたあ…」
この歯医者さん、けっこうなお爺さんなんだけど、すごく豪快でパワフルな感じの先生なので、こういう力仕事でも、安心して任せられるのは心強い。
この先生のとこに通ってる人がけっこう多いらしく、ファンも多いらしい。あんまり商売っ気は感じないし、医院の設備も必要最低限という感じだが、余計なこと言わずに、しっかり対処してくれるのが有難い。
翌日に診察と消毒。
一週間後に、縫合した歯茎を抜糸した。プチン、プチン、と糸を切っていく時に数えたら、たぶん、7針だった。多いほうかなあ。
今は抜歯の3日前から抗生物質を服用し、抜歯後も一週間服用する。お蔭で、感染症や合併症の危険は少ないらしい。
この後は、一カ月ほど歯茎の状態が落ち着くのを待ち、それから入歯なりなんなりを作る、という順序になった。
入歯かブリッジのどちらか、ということだったが、ブリッジにすると両側の歯に手を加えるので、後から戻すことができない。
私は最初は入歯にして、どうしても使いにくいようだったら、ブリッジに変更する、という予定でお願いした。
私もついに、入歯の仲間入りをしてしまうのか。まあ、本命が七赤だから、「一欠け」はしょうが無いというか、一欠けで当たり前の状態か。
しかしまあ、予想外に大変な抜歯で、私も驚いてしまったし、歯医者さんのほうも、そんなに多いケースではないと思う。
検索したら、骨性癒着の発生頻度は、永久歯で0.3%程度とあったので、330人に一人ってことか。けっこうレアケースかも。
かなり大変な抜歯だったのは確かだが、その後、自分でも予期せぬ変化が起こった。
ほんとに翌日ぐらいから、味覚が変わったのか、食事が美味しくなったのだ。
抜歯前は、ご飯もパンも麺類も、固形物や主食類が不味くて、あまり喉を通らなかった。この原因は、他に服用している薬の影響もあるのだが、抜歯を境に、味覚不良がかなり改善された。
前はなんだか、悪いものを口の中に抱え込んでいる感じがあったのだが、それが無くなったのだ。
もちろん、奥歯が一本無いので、非常に食事がしづらいのは当然だ。
他の歯は健康なので、特に食べられない食品は無いのだが、やはり、奥歯が片方無いのは影響が大きい。それなのに、ここまで改善されるなんて、自分でも少々びっくりだ。
抜歯奮闘記でした。親切でパワフルな歯医者さんに感謝。